おにぎり屋本舗 うらら
小泉は黒スーツの内ポケットから警察手帳を取り出し、提示する。
応対に出た女性の顔が一瞬強張るが、すぐに口元に笑みを戻した。
小泉は聞く。
「この会社の代表は、あなたですか?」
「いいえ、私はただの事務員です。
社長の久保田は、只今席を外しております」
「そうですか。
では、あなたに二三、質問したいことがあります」
そう言われ、女性は小泉達をオフィスに通した。
変わった所のない、小さなオフィス。
事務机が4つあり、その向かいに社長席、
パソコンに電話、仕事用ファイルがずらり並べてある。
オフィス内には、二人の若い男がいた。
小泉達を見ると、軽く会釈し、外勤しますと告げてそそくさと出て行った。
この会社は様々なセミナーを主催しているが、
一番集客率が高いのは、“自己啓発セミナー”だと知本が下調べしていた。
自己啓発セミナーという物は、
良く言えば、自分という人間を知り、生き方を考え直す場所。
悪く言えば、マインドコントロールに掛けられそうな場所。
恐らく、この会社は外部から批判されたことがあるのだろう。
警察が来て、逃げ出した男二人を見れば、それが推測された。