レッスンはアフターで
「あのさ、紙は?さっさと書いて綾香のところに戻りたいのだけど」


目を見開いたのを見て確信した。


これ、最低男なりの優しさだ、多分。


「あのさ、あなたが勘違いするのは勝手だけど、私、順一さんのこと好きじゃないよ?」


「じゃあ、何であんな顔してた?俺のキスに過剰に何で泣いた?まさかのファーストキス?」


フンととなりに座った男は、机上に入会の用紙を置き、誤魔化すなと視線を投げてくる。


「ただの幸せな二人への嫉妬。馬鹿でしょ、笑ってもいいよ。キスで泣いたのは、心が弱ってたからじゃない?」


ばか正直に答えるなんて滑稽だ。


でも、この男に、順一さんのことだけでなく、キスまでも疑われたら……と思うと癪だから。


ペンを走らせて手元を見ていて、この男がどんな顔をしているかわからないけど、きっとくだらないと馬鹿にした顔をしているだろう。


それでいい。馬鹿にしても笑い者にされてもいい。誤解されるよりは、ずっと。


ほんの少しの優しさにつられておしゃべりになっただけのことだと割りきるから。
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