幸せの花が咲く町で




「じゃあ、行って来ます。」


……とはいえ、バス停はすぐ目の前。
バスの姿が小さく見えたのと同時に私は店を出た。



「おかえりなさい、小太郎ちゃん!」

「ただいま~!」

元気にお返事をする小太郎ちゃんは本当に可愛い。
旦那様よりは、奥様に似ている。



「小太郎ちゃん、ママがお花がいるって言ってたから、ちょっとお店に寄ってね。」

「は~い。」

「どのお花が良いかなぁ…?
小太郎ちゃんも選んでね。」



季節の花を適当に選び、店を出ようとした時、小太郎ちゃんが立ち止まった。



「あ、仏様のお花も買わないと……」

「そうなの?
じゃあ、それも持っていきましょうね。」



小太郎ちゃんの小さな手は柔らかくて温かい。
私は、この先、子供を産むこともないだろう。
小太郎ちゃんみたいな子供でもいたら、母さんも少しは生きがいみたいなものがあっただろうに……

そう思うと、自分の不甲斐なさに気持ちが沈んだ。



ほんの数日でも、母親のような真似事をさせてもらったこと…本当にありがたいと思った。
出来ることならこれからもずっと、堤さんご一家とは仲良くさせていただきたいけど……そんなことをしたら、そのうち私のことがバレてしまう。
惨めな本当の私が……
だから、お手伝いをするのは今回限り。
あとはまた、花屋の店員とお客様に戻るだけ。



「ただいまーーー」

鍵は預かっていたのに、小太郎ちゃんが大きな声を出したせいか、堤さんが降りて来られた。



「申し訳ありません。
またこんなことをお願いしてしまって……」

堤さんの顔色は、やはりまだ優れなかった。



「いえいえ。
私にはこんなことしか出来ませんから。」

「迎えに行こうと思ったら、なっちゃんからさっきメールが来て、篠宮さんにお迎えは頼んであるからって書いてあったんで、びっくりしました。
厚かましいことをお願いして、本当にすみません。」

「……そんなことより……どうかお休みになって下さい。
あ、お腹すいてらっしゃいますか?
なにか食べられますか?」

「いえ……大丈夫です。
では、お言葉に甘えて、横にならせていただきます。
本当にどうもありがとうございました。」

堤さんは、そう言って、また部屋に戻って行かれた。
< 104 / 308 >

この作品をシェア

pagetop