幸せの花が咲く町で
「そんなことがあったの!?
香織さん、本当にどうもありがとう!こたを助けてくれて……」

夏美さんは、私の手を握り締め、何度も頭を下げられた。



「いえ、そんな……確かに危なかったんですが、多分、私が助けに行かなくてもきっとなんとか大丈夫だったと思いますよ。
載ってた男性は若くてちょっと感情的な人でしたが、おかしなクスリをやってるような感じではありませんでしたし、きっと急ブレーキで間に合ったと思います。」

「そう……
こたには、いつも急に飛び出しちゃ危ないって言ってるんだけど……まだ小さいからすぐに忘れるんだろうね。
また言っとかなきゃ。
それで、優一は、そのシーンを見て倒れたんだね?」

「はい、確か、叫び声のようなものも聞いたような気がします。
私が見た時には、旦那様は青い顔をして倒れてらっしゃって……
その時は、風邪のせいだと思ったんですが……」

夏美さんは、私の話を聞きながら小さく何度も頷かれた。



「多分……優一は、思い出したんだろうね。
最近はもうずいぶん元気になったと思ってたんだけど、やっぱりそんなに急に良くなるわけじゃないんだね。」

「元気って……?」

「……所謂、心の病ってやつだよ。
本人がいやだって言ったから、病院には連れて行ってないんだけど……
まぁ、当然のことだよね。
四年や五年で忘れられるようなことじゃないから……」



あの旦那様が心の病……?



ちょっとびっくりした。
最近は、心の病に苦しむ人が多いことは知っていたけど、まさかあの旦那様もそうだったなんて……
傍目には少しもそんな風には感じなかった。



(あぁ…そうか……)



夏美さんが働いて、旦那様が家事をする……
その生活スタイルは、旦那様を気遣ってのことだったんだと、私はようやく理解した。
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