幸せの花が咲く町で
◆香織

眠れない夜に





(もう1時過ぎか……)



暗い中に浮かび上がった携帯の時刻に私は深いため息を吐いた。



いつもならとっくに眠ってる時間。
だけど、今日はなかなか寝付けなかった。



(それも、当然のこと。
あんなことがあったんだもの……)



堤さんが心に深い傷を負われてることは知っていたけど……
今日のことで、それがどれほどのものかを思い知った。
私が思ってたよりもそれはずっとずっと深い傷で、今もまだ血を流してることがよくわかって……
私はそんな堤さんに何もしてあげられず…ただ、その気持ちを受け止めてあげることさえ出来ないことが悲しくて情けなくて……結局、困惑した私はどうしたら良いかわからずに、子供のように泣いてしまった……



あんなこと言わなきゃ良かった。
本当にさしでがましい真似をしてしまった。
花瓶は、ちょっと喜んでもらえたような気がしたけれど、でも、ご両親のことは私なんかが触れちゃいけない問題だったんだ。
思い出しても恥ずかしい。
そうだ、花瓶だけ差し上げれば良かったんだ。



数日前、私は三駅先の町に出かけ、そこのデパートをいくつも回ってあれを買った。
一万円程の花瓶なんて、堤さんにとってはなんでもないだろうけど、私にとっては清水の舞台から飛び降りるくらいの勢いが必要だった。
先日、夏美さんにお金をいただいてしまったから、そのお返しのつもりもあって張り込んだ。
迷いに迷って、なかなか決められないでいたら、デパートの閉店時間が迫って来て……そんな時にみつけたのがあれだった。
私は、それを一目で気に入ってしまった。
あの仏間に置くのは、それしかないと思うくらい、とても気に入った。
花瓶を持って帰りながら、お母様のお好きだった花を活けてあげたら、堤さんも喜んで下さるんじゃないかって、わくわくして……本当に軽く考えてたんだって思う。



(私には、傷付いた人の気持ちなんて少しもわかってなかったんだわ…)


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