幸せの花が咲く町で




それからも、お花と料理の練習は、とても和やかに続いていった。
僕は水曜日が来るのが楽しみになり、篠宮さんに教えるために新しい料理を覚えたりもした。
花にもさらに興味がわいてきて、僕は植物図鑑を買い、花の勉強もするようになっていた。
そんなある日のこと……なっちゃんは、最近、仕事が忙しいらしく、その日の練習がてらの夕食には間に合わないとのことだった。



「堤さん、やっぱりあの棚は気に入られないんですか?」

「そうなんですよ。
ネットでも探してみたんですが……やっぱり自分の目で見てみないと、画像だけでは質感やらいろいろわからないことがありますから。」

「あの……桃田にけっこう良いお店があるんですけど……」

「桃田……」

それはここの最寄り駅から三つ目の駅で、このあたりでは一番の都会。
大きなデパートやショッピングセンターが立ち並ぶ賑やかな町だ。
なっちゃんもそこで働いている。

あんなことがあって以来、僕の行動半径はとても狭くなった。
特に人が多い所は、なにか不安な気がしてほとんど出ていない。
この数年間で僕が出掛けたといえば、一度だけ、なっちゃんと小太郎と三人で動物園に行っただけで、その時も僕は具合が悪くなり、早々と帰って来たんだ。
なっちゃんが働き始めてからは、小太郎もほとんどどこにも連れて行ってない。
出かけると言ったら、すぐ近くのスーパーかホームセンターか公園くらいのものだ。
そのことは常々かわいそうだと思いながらも、ずっとそのままになっていた。



「行きたいのは山々なんですが……
情けないことに、僕……あれ以来、人が多い所が苦手になってしまって……」

「そうですか……」

篠宮さんは、心配そうな顔で僕をみつめた。



そういえば、篠宮さんにお礼というかお詫びというか……なにかプレゼントをしたいと思いながら、それもまだ気に入ったものがみつからず、何も贈っていなかった。
桃田なら、きっとこのあたりには売ってないような小洒落たものが売ってそうだけど……



「篠宮さん……もしも、桃田に買い物に行くとなったら、着いてきていただけますか?」

「え?ええ!もちろんです!
桃田までは電車ですぐですし、もしなんならタクシーでも帰れますよ。」

「……そうですね。」

< 159 / 308 >

この作品をシェア

pagetop