幸せの花が咲く町で
若い女の子じゃあるまいし、いい年をして、買い物に着いてきてくれるか?なんて訊いてしまったことを僕は後悔した。
だけど……考えてみれば、篠宮さんにはもっと恥ずかしいところを見られてるんだ。
あれに比べたら、このくらいのこと、なんでもない。



「それじゃあ、いつ頃にしますか?」

僕は小太郎の様子を見た。
タイミングの良いことに、あいつは、動物の番組に釘付けだった。



「では、来週の水曜日にしませんか?
お花とお料理は中止になりますが……
それで……お願いなんですが、そのことは小太郎にもなっちゃんにもまだ言わないでほしいんです。」

僕は声を潜めてそう話した。



「え……あ、はい、わかりました。
でも、どうして……?」

「当日になってやっぱり行けない…なんてことになったら、小太郎もがっかりするだろうし、なっちゃんには当日仕事場に電話してびっくりさせてやろうかと思って……
あ、なっちゃん、桃田で働いてるんです。」

「そうなんですか…わかりました。
では……来週……」



なぜ、僕がそんなことを約束してしまったのかわからない。
しかも、いきなり来週だなんて……
でも、こういうことは勢いが大切だ。
あんまり先の予定だと、待ちくたびれてしまう。
それと、なにより花を置く台が早くほしかったのと、篠宮さんへのプレゼントのことが気にかかっていたからだ。
既婚者である篠宮さんにプレゼントなんて…とも思ったものの、その後、僕はあることを思いついた。
うちで料理をする時に使うエプロンをプレゼントしたらどうかと考えたんだ。
それだったら、家に持って帰ることもいらないから、家の人に詮索されることもないだろう…と。
ところが、スーパーやホームセンターにあるのは本当にありきたりなものばかりで、どうにも気に入らなかった。
桃田に行けばもっと素敵なものがあるだろうし、エプロン以外のもので良いものがみつかるかもしれない。
それに、これをきっかけにまた以前のように好きな所に平気で行けるようになったら、小太郎をあちこち連れていってやることも出来る。



(いいかげん、頑張らないとな……)



僕の心の中には、不安よりも期待の方が大きく広がっていた。


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