幸せの花が咲く町で
自分でも気付かないうちに僕の頬は緩んでいて、はっと我に返ってあわてて新聞を凝視した。
けれど、小太郎と翔君はそんな僕には目もくれず、相変わらず緑色のヒーローに見入っていた。



(何やってんだ……)



馬鹿馬鹿しくなって、僕は新聞を畳んだ。



僕が気に入ったツリバナのエプロンは、思った通り、篠宮さんにとてもよく似合っていた。
常に控えめで、なっちゃんみたいに目立つことはないけれど、妙に頼れる人だ。
神経もこまやかだし、自己主張が強いこともないし、かといって自分の意志がないというわけでもない。



(もしも、あんな人が僕の奥さんだったら……)



両親が何事もなく生きていて、もしも、なっちゃんの言う通り、母さん達が僕との同居を望んでいたら……
篠宮さんだったらきっとうまくやってくれてただろうな。
花の趣味も合うし、二人で仲良く庭の手入れをしたりして……



そんな甘い妄想はすぐに破れた。



(何を考えてるんだ。
篠宮さんは結婚してるんだぞ。
家庭になんらかの事情はあるとしても、それは一時的なことかもしれないし、そもそもそんなのは僕の想像だ。
本当は何事もないのかもしれない。
第一、事情があろうがなかろうがそんなことが僕に何の関係があるっていうんだ!?
そう……篠宮さんは、ただの知り合いなんだから……)



そんなことはわかってる。
わかってるはずなのに、僕は湯呑まで買ってしまった。
まるで、家族のように、あの茶箪笥の中に湯呑は四つ並んでる。



どうしてそんなことをしてしまったんだろう?



(……そういえば……)



家に人が来るのはとてもいやだったのに、あの時、僕はどうしてあんなにすんなりと篠宮さんを入れてしまったんだろう?



それは具合が悪かったからだ。
そうだ…それだけじゃない。
小太郎を助けてもらったからだ。
家まで送ってもらったし、それを玄関先で追い返すわけにはいかなかったから…きっとそうだ。
あの日のことを僕は頭の中で繰り返す。



いろいろと世話になったあの日のことが、頭の中によみがえる……
そして、僕は気付いた。



そうだ…篠宮さんはなっちゃんと同じなんだ……
無償の愛で僕を守ってくれる。
僕を支えてくれる人……



(だから、こんなにひかれてしまうんだ……)



そう気付くと、なんだか胸が苦しくなった。
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