幸せの花が咲く町で




「じゃあ、行きましょうか。」



ありがとうが言えず……
つまらないことを言ってごめんと謝ることも出来ないまま、その場の気まずさを無理矢理に押さえ込んで、僕達は買い物に出かけた。



「堤さん……実は今日のメニュー、まだ思いついてないんです。」

「じゃあ、気になったものを適当に選んで下さい。
食材から料理を考えるのも、勉強になりますよ。」

「そうですか。
それじゃあ、そうします。」



今日は小太郎がいないから、スーパーへの道程はいつもよりも近く感じられた。
なのに、その短い時間が……いつもみたいにうまく話せない。



「最近は、天候不順のせいか野菜が高いですよね。」

「そうですね。
お花もいつもより上がってるんですよ。」

「そうなんですか……」

一つの話題が終わる度に、沈黙が流れる。
その度に、僕か篠宮さんが焦って次の話題を話して……



そんなやりとりがなんだかおかしくて、僕はついに吹き出してしまった。
篠宮さんは一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐに僕と同じように笑って……



泣いたり笑ったり……
こんなに感情をむき出しにすることは、昔なら絶対になかったことだ。



そんなことは、大人として男としてみっともないことだと思ってた。
だけど、意外に悪くない。
なんでもないことで笑ったら、心の中まですっきりと晴れ渡る。



それに……


こんな僕を受け入れてくれる人が、この世界に数人はいるんだから……






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