幸せの花が咲く町で




(それにしても、あれはちょっと危なかったな……)



夜が更け、横になりながら、私は今日の出来事を思い返していた。



小太郎ちゃんがいないだけで、今日はやけに緊張した。
なんだか気を遣いすぎてしまって、うまく話せなかった。
しかも、失言までしてしまって……
あの時は本当にひやっとした。
夏美さんを最初に見かけたのがあの地下街だったから、夏美さんのお勤め先があの家具屋さんの傍だって聞いた時に、思わず「やっぱり」なんて言ってしまって……
幸い、堤さんは勘付いてらっしゃらないみたいだったから良かったけど……



(もっと気を付けないと……)



夏美さんのことも少しも気付いてらっしゃらないみたい。
今後もなんとかバレないようにしなきゃ…!
そして、夏美さんには早く火遊びをやめてほしい……
そんなことをしていたら、いつか大切なものをなくしてしまうってことに早く気付いてほしい。



なにがきっかけだったのかわからないけど、今日も堤さんの感情が噴き出した。
フラッシュバックみたいなことが度々起きるのかもしれない。



(そういえば、母さんも一時期あんなだったな……
急に、よくわからないことで酷く怒り出したり、当たり散らかしたりしてた……)



でも、きっとそういうのは元気になっていく過程で、どうしても避けては通れないことなんだろうと思う。
心の中に溜まった澱みたいなものを出すためには、きっと必要なことなんだろう。



(私にもなにか出来るだろうか?
堤さんが元気になられるためのお手伝いが……)



そう考えた次の瞬間、私ははっと我に返った。



(その役目をするのは私じゃない。
夏美さんだ……)



その現実を突きつけられると、急に気持ちが沈んだ。



親しくなればなるほど、堤さんにひかれてしまう。
堤さんが手の届かない人だってことはわかってる。
私が、人を愛する資格のない女だってこともわかってる。



なのに、どうしてもそれが止められない。
私の心の中で、堤さんの存在が日々大きくなっていってる。



(どうすれば良いの…?)


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