幸せの花が咲く町で




「あ、堤さん!」



それから二、三日程経ったある日のこと……
その日は、珍しく篠宮さんの姿がなく、代わりに、両親のお参りに来てくれた女性……確か、山野さんとかいったあの人がいて、僕を不意に呼び止めた。



「すみません。
近々、もう一度、ご両親にお線香をあげに行きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「え……えぇ、それは構いませんが……」

「そうですか、ありがとうございます。
実は……」



山野さんの話は意外なものだった。
花屋を畳んで、ご主人の田舎に行って花農家をするとのこと。
そうなれば、もうなかなかこっちには来れないから、その前にもう一度……ということだった。



(だったら、篠宮さんは……)



最初に頭に浮かんだのはそのことだった。
この店が潰れたら、当然、篠宮さんは別の仕事を探すだろう。
今度の仕事がまた接客業だとは限らないし、この近くだとも限らない。
そしたら、きっと今までのようには篠宮さんには会えなくなってしまう……



僕は再び運命というものを感じた。
やっぱりそうだ。
母さんが……もしくは別の存在が、僕と篠宮さんを引き離そうとしている。
そんなおかしなことを直感的に感じた。



「残念ですね。
このあたりにはこちらのような良い花屋さんはないのに……」

僕は心の中の動揺を押さえ込み、極めて冷静にそう話した。



「すみません。堤さんには本当に長い間お世話になりましたね。
あ、では、前日にでもまたご連絡致します。」

僕は頭を下げ、小太郎と共にその場を離れた。



「お店なくなっちゃうの?」

「そうみたいだね。」

「じゃあ、お花も買えなくなるし、おばちゃんとも会えなくなるね。
これからどうするの?」

「……どうもしないさ。」



どうもしないのではなく、どうにも出来ない。
花は、種類は少ないものの、スーパーやホームセンターで買おうと思えば買える。
けれど、篠宮さんの代わりはどこにもいない。



(どんなに辛くとも、諦めるしかないんだ。)


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