幸せの花が咲く町で

天国から奈落の底へ

三人で他愛ないことを話して、笑って……
先日とはまるで違う楽しい食事会となった。



「引っ越す前に、良かったらもう一度、皆でお食事しましょう。」

「そうですね。
今度は慎吾さんやサトシ君も一緒に……」

「そうよね。
実は……サトシはずっと不貞腐れててね……
ここを離れるのがいやなのよ。
だから、この間も今日も来なかったの。」



サトシ君の気持ちはよくわかる。
子供の頃は、世界が狭いから、友達と離れるってことは相当堪えることだもの。
しかも、知らない土地に行く不安もあるだろうし……



私なんかじゃ友達の代わりにはなれないだろうけど、出来るだけ手紙を書こう……
ふと、そんなことを考えた。



「それじゃあ、また明日ね!」



今回は、岡崎さんと奥様がいつもより多めにお酒を飲まれたせいか、気が付けばこの間よりも遅い時間になっていた。
今日の良い余韻を感じていたくて。私は自転車を押しながらゆっくりと家に向かった。
遅いとはいえ、まだ10時を少し回っただけだから、行き交う人の数はそれなりにあった。
線路を横切り、家の方に向かっている時、私はあるものに目を奪われた。
それは、駐車場の中でも一際目立ってる青い車……



(まさか……!)

私の脳裏に、夏美さんとあの男性の顔が浮かび上がった。



それは、最近、うちの近所に出来たばかりのイタリアンのお店の駐車場にあった。
なんでも、けっこう有名なシェフのお店らしい。
そんなお店ならどうせ高いだろうし、私には関係ないと思って詳しく知ろうともしなかった。

青い車はあまり見かけない車種だけど、でも、日本に一台きりってことはないはず。
だから、あの人の車だとは限らないけど、でも、ここは夏美さんの家の傍……そう思ったら、やっぱりあの人の車のようにも思えた。
どうしてあの時、ナンバーを控えておかなかったんだろうと後悔したけど、もう遅い。
それに、もしも、あの車があの人のものだとしても、必ずしも夏美さんと一緒だとは限らない。
もしかしたら、夏美さんじゃない人と一緒かもしれない。
たとえば、家族で来てるってことだってあるかもしれない。



(どうしよう…!?)



夏美さんの詮索はもうしないって決めたけど、でも、やっぱり気になる……
せめて、あの車があの人のものかどうか、そして、夏美さんが一緒かどうかを確かめたい!



結局、私は駐車場の傍に身を潜め、夏美さんが出てくるのを待つことにした。
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