幸せの花が咲く町で
「夏美さん…私……」

夏美さんは、何も言わずただゆっくりと頷かれた。



「じゃあ、今でもその人のこと、愛してる?」

「いえ、それはありません。」

自分でも思いがけない程きっぱりと、私はそう答えていた。



「じゃあ、問題ないね。」

夏美さんはにっこりと微笑まれた。



「こたと二人で暮らしてた時、もしも、亮介と結婚しないで元彼と結婚してたらどうなってたかな?……なんてことをよく考えたよ。
恋愛だけに限らず、誰だってそういうことを想う時があると思うんだ。
優一だって、両親があんなことになってなきゃ、きっと今とはずいぶん違う人生を歩んでたと思うんだ。」

夏美さんはそう言うと、手元のマンゴージュースを一口飲まれた。

 

「あの子はね、子供の頃から真面目でしっかりしててね。
私とは違って、繊細で優しい子だったんだ。
両親の葬儀の時も涙ひとつ見せなかった。
なんて気丈な子だろうって思ったよ。
だから、心配も全然してなかった。
あの子は繊細な子だったけど、それは子供の頃のこと。
大人になったから、事故のことも冷静に受け入れたんだって思ってた。
だけど、一年半くらいした頃だったか……
真夜中に優一から電話がかかってきたんだ。
あの子は、常識のある子だから、よほどのことがなけりゃ、夜中になんて掛けて来ない。
いやな胸騒ぎがしたよ。
そしたらね……あの子が言ったんだ。
『僕、わかったんだ。
僕は母さん達を殺した罪で死ぬんだ……』って……
おかしいって、咄嗟に思ったよ。
優一は、さらに『僕は死ななきゃいけないんだ……
僕が母さん達を殺したんだから!』って叫んだ。
それも今まで聞いたことのないような悲痛な声でね……
私は、優一が死んでしまうって思って、すぐに警察に電話して来てもらって、優一の家に行って……」



夏美さんの唇がわなないていた。
夏美さんの頭の中には、今、当時のことがまざまざと思い浮かんでるのだろう。
私にもその緊張がひしひしと伝わった。
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