幸せの花が咲く町で
「ひさしぶりに会った優一は、びっくりするほどやつれてた。
優一は……我慢してただけなんだって、その時にやっとわかったんだ。
我慢しすぎて、心が粉々になってたんだ。
とても一人にはしておけないって思って、そのままうちに連れて来た。」

「……そうだったんですか。
そんないきさつが……」

それから夏美さんがどういう日々を過ごされてきたのかは、私にも想像がついた。
きっと、うちの場合と似たようなことだろう。
それがどんなに辛い日々だったのかは言われなくても身に染みてわかってる。



「あの時あんなことさえなければ……
あの時、こうしていたら……って、誰だって考えるだろうけど、そんなのは幻。
今目の前にある現実を避けることは、誰にも出来ないんだよね。
私だって何度も思った。
両親の死を見たのが、優一じゃなくて私だったら良かったのにって……
でも、代わってやることなんて出来ない。
過去を変えることなんて誰にも出来ないんだよね。
だから、私には、目の前の優一を支えることしか出来なかったんだ。
優一のことは、一生、私が支えるつもりだった。
でも……ある時、優一があんたのことを想ってることに気が付いた。
だけど、その時はあんたが結婚してるって思ってたから、とても複雑な想いだったよ。
そのうちに、あんたも優一を想ってることに気が付いた。
それに伴って、周りの環境もどんどんうまい具合に変化していって……」

ふと見ると、夏美さんの遠くをみつめる目にはうっすらと涙が溜まっていて……



「……もしかしたら……母さんの導きじゃないかって思えたんだ。」

「お母様…の…?」

「うん……この町に来たのも、優一と香織さんが出会ったのも……
すべては母さんの導きだったんじゃないのかな?
優一が仕事ばっかりして、全然結婚のこと考えてないって、母さん、心配してたからね。」

その言葉に、堤さんのお母様のあの明るい笑顔が思い出され、私は胸が一杯になってしまった。
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