幸せの花が咲く町で
あれはいつだったか……
そう……確か、堤さんや小太郎ちゃんと一緒にスーパーに行ってたのを母さんに見られた時のことだ……
それで、焦って堤さんのご家庭の事情を話したら、母さんもあの当時は外に出るのが怖かったって話してくれて、それで、私がお姉ちゃんの話を出した時、母さんは何かを言いかけた……
それは確か……



『あの子は自分のせいで……』



その時は特に深く考えなかった。
だけど、今の堤さんの話とその言葉は妙に重なる。



「篠宮さん…どうかしましたか?」

「え……いえ……
な、なんでもありません。」

母さんに訊いてみないと……
まさかとは思うけど、もし本当にそんなことがあったとしたら……



「そ、それで、結局、私が高校を卒業する頃に、両親は離婚しました。」

私は話題を逸らせるために、さっきの話の続きを話し始めた。



「私は母と暮らすことを選択しました。
父親は、事故以来、あまり話すこともなくなり、なんだかとても冷たい人のように感じていましたから、それよりはまだ母の方がましだと思ったのか…当時の自分の気持ちがどうだったのか、実はあまりよく覚えていないんです。
両親の離婚後、私達はすぐに実家を離れました。
何度か引っ越して、この町にやってきたのは十年近く前です。
私は高校を卒業してからはとにかく真面目に働きました。
お金がほしかったんです。
いざという時には、お金しか頼れるものはないって思ってましたから。
特に楽しいことも何もなく、ただただお金のためだけに私は働きました。
一日たりとも休んだことはありません。
私は思い切ったことの出来ない性分ですから、いくらお金がほしいとはいえ、働いたのは主に事務職でした。
ですから、それほど稼げるわけでもありません。
そのほとんどは生活費に消えますし、貯金は少しずつしか出来ませんでしたが、それでも長い間にそれなりの額が貯まってました。」

堤さんは何も言わず、ただ頷きながら私のつまらない話に耳を傾けていて下さった。

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