幸せの花が咲く町で
「……そんなに幸せそうに見えましたか?」

堤さんは俯いたまま、まるで独り言のようにそう呟かれた。
きっと怒ってらっしゃるんだと思った。
私があんないやみなことを言ったから……
でも、今更、それを取り繕うことは出来ない。



「……はい。」

私は恐る恐るそう答えた。



「……じゃ、僕も嘘吐きですね。
僕は幸せなんかじゃなかったから。
いや……嘘とも言えないかな。
僕はなっちゃんや小太郎に救われた。
あの時、なっちゃんが来てくれなかったら……僕は今ここにはいなかったかもしれない。」

「や、やめて下さい!!」

「本当のことですよ。
命を救われたことにはとても感謝しています。
だけど……感謝と幸せは違う。
正直言って僕は生きることにまだ前向きではありません。
自分が今、何のために生きてるのか、まるでわからないんです。
ただ……なっちゃんを裏切れないから……
こんな僕でも、いなくなったら悲しんでくれる人がいる限りは、死んではいけない。
そう思うから、生きてるだけなんです。
そんな僕が幸せそうに見えたのなら……やっぱり僕は嘘吐きだ…」

堤さんの言葉は衝撃的だった。
こんなにも悲しい言葉を私は今まで聞いたことがない。
堤さんはまだこれほどの深い闇をかかえてらっしゃったんだと思ったら、たとえようもなく苦しくて……
その極めて冷静な口調が、さらにその言葉を寂しく響かせた。

堤さんにかける言葉がみつからなかった。
なにか言いたいのに、頭に浮かぶのは陳腐な言葉ばかりで……私の瞳からは、いつしか熱い涙がこぼれ落ちた。



(ごめんなさい。
そんなに辛い想いを言わせてしまって……)



止める間もなくぽろぽろとこぼれ落ちる涙は、押さえたハンカチに吸い込まれていったけど、それでもなかなか止まることはなかった。
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