幸せの花が咲く町で
堤さんは、私のことをじっとみつめられていた。
私は、ようやく我に返って……そしたら全身から力が抜けて、その場にへなへなと座り込んだ。



「あなたって人はまったく……」

冗談めいた口調でそう言うと、堤さんはそっと目頭を押さえられた。



「……篠宮さん、待って下さいますか?
僕がまともな男になれるまで……」

その小さな声は、一瞬、夢かと思えるものだった。
でも、夢じゃない……!



「え?ええ、ええ!いつまでだって待ちます。
私に出来ることがあれば何だってします。」

私は胸がいっぱいで、止まらなくなった涙を拭いながらそう答えた。



「時間がかかるかもしれませんよ。
それに、長い間待ってもらっても、必ずしも立ち直れるとは限らないんですよ。
それでも良いんですか?」

「構いません。
私…待つことは嫌いじゃないんです。
それに働くことも好きです。
実は、家のことは本当は苦手なんです。
だから、今までと同じように私が夏美さんみたいに働いて、堤さんに家事をしてもらっても良いと思うんです。
堤さんはなんたって主夫の鑑ですもの。」

「僕に一生主夫をやらせるつもりですか?」

「あ……」



私達は顔を見合わせて笑った。
そういえば、堤さんは、何も結婚して下さいと言われたわけでもなんでもないのに、私はまるで結婚が決まってるかのようなことを言ってしまって……
恥ずかしくて、穴があったら入りたい気分だった。



「もう一度聞きます。
本当に、僕で良いんですね?
僕を待っていて下さるんですね?」

「はい。もちろんです。
私……堤さんのことが大好きです。
私は、本来ならあなたとは釣り合う女じゃないのかもしれませんが、私……あなた支えになりたいんです。」

「ありがとう。
僕も篠宮さんのことが好きです。
いつか、僕の力であなたを幸せにしたい……」

「つ、堤さん……!」

素直に嬉しかった。
こんなつまらない私のことを受け入れてもらえたことが……
嬉しくて、幸せで、私はまた感情のままに涙を流すことしか出来なかった。

< 283 / 308 >

この作品をシェア

pagetop