幸せの花が咲く町で
*
「これを全部作られたんですか?」
「ええ、まぁ……」
「まるで、レストランみたいですね。」
お母さんは無理をしてくれてたのか、出したものをほとんど全部綺麗にたいらげてくれた。
「お嫌いなものがあったらおっしゃって下さいね。」
「私はなんでもいただきますよ。
そんなに気を遣わないで下さい。」
「あ……こんな時になんですが……
僕、篠宮さん…じゃない、香織さんとお付き合いさせていただいています。」
こういうことは早めに言っておかないと、心象が悪くなると思い、恥ずかしかったけど勇気を出してそう話した。
「ありがとうございます。
この子は、若くもなけりゃ器量よしって程でもありませんが、真面目で働き者の良い子です。
どうかよろしくお願いします。」
「僕の方こそ……
僕は、何も出来ない駄目な人間ですが……」
僕がそう話しかけると、お母さんは唐突に首を振った。
「ご自分のことをそんな風に言っちゃいけません。」
「でも、僕は本当に……」
「ご両親を苦しめちゃいけません。
あなたがそんなことをおっしゃる度に、ご両親は心を痛めてらっしゃいますよ。
自分達が死んだせいで、この子はこんなに苦しんでるって……
あ……あなたのご事情は香織からお聞きしました。
本当にお辛い経験をなさいましたね。
私も事故に遭った経験がありますから、あなたのその時のお気持ちはわかるような気がします。
でも、忘れちゃいけませんよ。
亡くなったって、この世からいなくなったって、なにも親子の縁が切れるわけじゃありません。
親は死んだ後もいつまでも親なんです。
ずっと、子供のことを気にしてると思いますよ。
あなたがご自分のことを駄目だなんて言われる度に、ご両親はあの世できっと悲しまれておいでですよ。」
途中で篠宮さんが止めようとしてくれたけど、お母さんはそれを無視して最後まで話しきった。
悲しんでばかりいると亡くなった人が成仏出来ないとかいう話はよく聞いたけど、今のお母さんの話はとても具体的だったから、妙に心に突き刺さった。
(死んだ後も、ずっと親子……
母さんはずっと僕の母さんで、父さんはずっと僕の父さんで……)
込み上げて来る熱いものを、僕は唇を噛みしめて我慢した。
「あなたはきっとご両親のご自慢の息子さんだったんじゃないでしょうか?
そのあなたが、自分たちのせいですっかり自信をなくされているのを見たら……」
「母さん、もうやめて!」
篠宮さんが激しい剣幕で、声を上げた。
「ごめんなさい、堤さん。
でも、私も親ですから、わかるような気がするんですよ。
親にとって、子供が自分のために傷ついたり苦しんだりすることほど、辛いことはありません。だから……」
そう言ってお母さんは、目頭をそっと押さえられた。
「これを全部作られたんですか?」
「ええ、まぁ……」
「まるで、レストランみたいですね。」
お母さんは無理をしてくれてたのか、出したものをほとんど全部綺麗にたいらげてくれた。
「お嫌いなものがあったらおっしゃって下さいね。」
「私はなんでもいただきますよ。
そんなに気を遣わないで下さい。」
「あ……こんな時になんですが……
僕、篠宮さん…じゃない、香織さんとお付き合いさせていただいています。」
こういうことは早めに言っておかないと、心象が悪くなると思い、恥ずかしかったけど勇気を出してそう話した。
「ありがとうございます。
この子は、若くもなけりゃ器量よしって程でもありませんが、真面目で働き者の良い子です。
どうかよろしくお願いします。」
「僕の方こそ……
僕は、何も出来ない駄目な人間ですが……」
僕がそう話しかけると、お母さんは唐突に首を振った。
「ご自分のことをそんな風に言っちゃいけません。」
「でも、僕は本当に……」
「ご両親を苦しめちゃいけません。
あなたがそんなことをおっしゃる度に、ご両親は心を痛めてらっしゃいますよ。
自分達が死んだせいで、この子はこんなに苦しんでるって……
あ……あなたのご事情は香織からお聞きしました。
本当にお辛い経験をなさいましたね。
私も事故に遭った経験がありますから、あなたのその時のお気持ちはわかるような気がします。
でも、忘れちゃいけませんよ。
亡くなったって、この世からいなくなったって、なにも親子の縁が切れるわけじゃありません。
親は死んだ後もいつまでも親なんです。
ずっと、子供のことを気にしてると思いますよ。
あなたがご自分のことを駄目だなんて言われる度に、ご両親はあの世できっと悲しまれておいでですよ。」
途中で篠宮さんが止めようとしてくれたけど、お母さんはそれを無視して最後まで話しきった。
悲しんでばかりいると亡くなった人が成仏出来ないとかいう話はよく聞いたけど、今のお母さんの話はとても具体的だったから、妙に心に突き刺さった。
(死んだ後も、ずっと親子……
母さんはずっと僕の母さんで、父さんはずっと僕の父さんで……)
込み上げて来る熱いものを、僕は唇を噛みしめて我慢した。
「あなたはきっとご両親のご自慢の息子さんだったんじゃないでしょうか?
そのあなたが、自分たちのせいですっかり自信をなくされているのを見たら……」
「母さん、もうやめて!」
篠宮さんが激しい剣幕で、声を上げた。
「ごめんなさい、堤さん。
でも、私も親ですから、わかるような気がするんですよ。
親にとって、子供が自分のために傷ついたり苦しんだりすることほど、辛いことはありません。だから……」
そう言ってお母さんは、目頭をそっと押さえられた。