幸せの花が咲く町で




「堤さん…さっきは本当にごめんなさい。」

お母さんはお風呂から上がられると、お休みなさいと言って部屋に入られた。
いつもならこの時間は、たいていなっちゃんとテレビを見ながら他愛ない話をしている時間だ。
今日からは、なっちゃんがいなくなり、その代わりに篠宮さんが僕の傍にいた。



「いえ……確かにちょっとショックだったけど……でも、心に響きました。」

「すみません。
母はけっこうはっきりとものを言う人なので……」

「僕は大学を出てから一人暮らしを始めました。
考えてみると、それから十年程、僕は親から離れていたから、注意らしい注意をされてこなかった。
なっちゃんと一緒に住むようになってからは、なっちゃんが言ってくれることはありましたが、姉の言葉と親の言葉ってやっぱりちょっと違いますよね。
僕は、ひさしぶりに親に諭されたような……そんな気分を味わいましたよ。」

「本当にごめんなさい。」

「あなたが謝るような問題じゃあありません。
それに、本当に僕はありがたいと思ったんです。
僕は、自分の行動が両親を苦しめてるなんて、今まで考えたこともなかった……
あんな風にはっきり言ってもらったら、駄目な僕も少しはまともになれそうですよ。
あ……また……」

僕が笑うと、篠宮さんも笑ってくれた。



なぜだろう……
同居の初日だというのに、篠宮さんがいても少しも違和感を感じなかった。



「あ、そうだ、篠宮さん。
明日、ホームセンターに行きませんか?
ちょっと買い物したいものがあるんです。」

「はい、私も少し買いたいものがあったのでちょうど良かったです。
ところで、小太郎ちゃんは無事に行かれましたか?」

「僕もあとで行くと嘘を吐いて……それでようやく……
里心がつかないように、しばらくは小太郎には電話もしないようにって言われました。」

「そうですか。
お寂しいですね。
でも、戸田野なんてすぐ傍ですよ。
会いたくなったらいつでも会いに行けますよ。」

「そうですね……」



僕が自分の部屋に戻ると、なっちゃんから電話があった。
小太郎は今日はとりあえず元気にしてたとのこと。
ただ、これからが少し心配だとこぼしていた。
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