幸せの花が咲く町で




「実はね!今、引っ越しが終わりました!」

「……引っ越しって……どういうこと?」

「うん……何というか……いろいろあってねぇ……」

なっちゃんは近況を話し始めた。
戸田野に行ってから、小太郎が家に帰ると毎日泣いて、なっちゃん達を困らせたこと。
亮介さんは、小太郎をこっちの小学校に通わせたらますます自分に懐かなくなるといって、地元の小学校に通わせると言い出し、復縁は中止だというところまで揉めたらしいのだけど、それもようやく落ち着いたとのことだった。



「考えてみたら、やっぱり私は優一の傍にいないといけないし、この町にいないといけないって気付いたんだよね。」

「なっちゃん……もう少しわかりやすく話してくれる?」

「だから……子供産んでしばらくしたら私はまた働くつもりだけど、そしたら子供を預けなきゃいけないよね。
それに、こただって、小学校から帰って来てひとりぼっちだったら可哀想だし、心配だし。
それに、何年かしたら、下の子の幼稚園の送り迎えがあるんだよ。
朝は亮介に行かせるとしても、お迎えはいけないよね。
だから……」

ここまでの話を聞いて、僕の脳裏には馬鹿げた推測が思い浮かんでいた。



「まさか……なっちゃん……」

「僕達、引っ越してきたんだよ。
マンションの一番上なんだ。」

僕の馬鹿げた推測は当たっていた。



「マンションって……どこの?」

「ほら、最近出来たばかりの所……」

「え?もしかして、去年から工事してたあそこ?」

「うん、多分、ここからマンションまでは5分くらいかな?
走れば3分でも行けるかも?」

「えーーーっ!」

それは、僕が風邪をひいた時にかかった小山田クリニックをさらに少し進んだ所に出来たばかりのマンションだ。



「こたは学校が終わってからここにいたら安心だし、私は仕事終わったら、ここで夕飯食べて帰れるじゃない?」

「そ、そんな……」

困惑する僕の向かい側で、お母さんが突然大きな声で笑われた。



「夏美さんって、本当に面白い人だねぇ……」

「弟とは全然違ってすみません!」

「いえいえ。良いんじゃないですか。
小太郎ちゃん、これからはおばあちゃんとも遊んでおくれね。」

「うん、いいよ!
僕ね、おじいちゃんもおばあちゃんもいなかったから、おばあちゃんが出来て嬉しいよ!」

「本当かい?おばあちゃんも孫が出来て嬉しいよ!」

お母さんと小太郎は、顔を見合わせてにっこりと笑った。
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