幸せの花が咲く町で
***



母が事故に遭ったのは、私がまだ小学生の頃だった。
あれは、おじいちゃんのお通夜の日のこと。
夜中に帰って来ていた母が車にはねられたという連絡を受け、父と二人で病院に向かった。
母がおじいちゃんに連れて行かれるんじゃないかと不安でたまらず、私は病院に向かう間中泣いていた。



幸いにも、母は命に関わるような怪我ではなかったものの、結局、母をはねた車は、みつからなかった。



事故にあってからの母は、人が変わったかのようだった。
今までは、明るくのんきな人だと思ってたけど、それがとても感情的な人に変わった。
ちょっとしたことで泣いたり怒ったり……
それは、きっと身体の痛みや不自由さや不安からだったんだろうと、今になればわかるけど、当時の私にはそこまでわかるはずもなく、ただ、その変化に怯えだんだんと母親の顔色をうかがうようになっていった。
退院すると、その傾向はますますひどくなり、母は家族にも当たり散らかすようになった。
当然、家の雰囲気は悪くなった。
母は働いてもいたからその分の収入が減り、その上に治療費がかかり、家のことが出来なくなり、いろいろなことが狂い始めた。
そのせいで姉は不良への道に走り、高校にも行かず、そのうち家を出て帰って来なくなった。
両親が離婚したのは、私がもうじき高校を卒業するといった頃だった。



私は母と暮らす道を選んだ。
母との関係はあまり良いものではなかったけれど、一人にするのがしのびなかったからだ。
いや、もしかしたら、私自身がひとりになるのが不安だったのかもしれない。
まだ十八だった私は、そこまで自立はしてなかったのかもしれない。
それ以来、私はただひたすら真面目に働いて来た。
どんな時にも一番頼りになるのはお金だと学んで来たから、私は決して贅沢をせず、まるで一昔昔の人間みたいにひたすら真面目に働いた。
塵も積もれば山となるの言葉通りに、薄給からちまちまと貯めた貯金は長い年月の間に、それなりの額になっていた。






< 40 / 308 >

この作品をシェア

pagetop