幸せの花が咲く町で




『智君、面白すぎ!
今から芸人さん目指したら?』

『それも良いかもしれないね。
だったら、かおりが相方になってよ!
僕がボケで、かおりがツッコミ。
二人で、夫婦漫才しようよ!』



(夫婦……?)



そんなの、智君の冗談だってわかってたけど、それでも私の胸は恋する少女さながらに高鳴った。


気が付けば、メールを始めてからもう一ヶ月程の時が流れていた。
その頃には、アドレスを交換して、サイトを介さずに直接メールのやりとりをするようになっていた。
他のどうでも良いメル友には返信することもなくなり、メル友は智君だけになっていた。
一週間もした頃から、智君は私のことを「かおり」と呼び捨てにするようになり、私は「智樹さん」という呼び方から最近は「智君」に変わってた。



『ねぇ、かおり。
あらためて聞くのもなんだけど、僕、かおりのメル彼って思って良いんだよね?』



(え…?)



どういうことだろう?
それって、言葉通り、メールの彼氏ってこと?



私は戸惑った胸の内を隠して、おどけて質問した。



『何、何?
智君、私のメル彼になりたいの?
それはなかなか難しいと思うよ。
今、候補が二百人ちょっといるから。』



そう送ったら、いつもならすぐに返って来る智君から返信がなかった。



(どうしたんだろう?)


携帯の画面をみつめながら、じっと返信を待った。
けれど、返事はない。
さっき送った返信をもう一度確かめる。
これといって、おかしな文面には思えないし、智君を怒らせるようなことも書いていない。

二時間が経った頃、私はどうにもたまらなくなって、またメールを送った。



『智君、どうしたの?
なにか用事でも出来たのかな?
それとも今日は早寝?』


そう送ってもすぐには返事はなく、十五分くらいしてからようやくメールが届いた。
私は焦ってメールを開く。



『ひどいよ。そういうことなら最初から言ってほしかったな。
僕はとんだピエロだね。(´;ω;`)』

私にはそのメールの意味がまるでわからなかった。
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