エンビィ 【完】
「百瀬が迎えにきたから帰る」
返事を待たずに立ち上がる。「また明日な」というクラスメイトの男の声を背中に、教室を出る。
正門近くに止められたリムジンに、白い桜が舞い散る。
あたしは桜が嫌いだ。
地味だから。
薔薇とか椿とか、目立つモノが好きなの。
髪にふってくる桜の花びらを振り落し、ドアを開けた。
「百瀬遅いじゃ――」
ないの、
とは続けられなかった。
「―――お久しぶりね」
なっ、
な…んで。
余りにもビックリしすぎて声すら出てこなかった。だって、誰が自分のテリトリーに身を潜めていたなどと予想できるだろうか。
「な、な…な…」
な、しか紡ぐことのできない舌に苛立つが、どうしようも出来ない。
もう、ホント、イヤ。
口籠るなんて、見苦しいマネ、情けないったらありゃしない…。