エンビィ 【完】
「あら、約束したじゃありませんの」
「な、なに…、」
どうにか言えた「なに」に、ユキノはくすりと清艶に笑う。
「食事にご招待すると、約束したじゃありませんの」
ユキノは我が物顔で、百瀬に行先を命じた。
……なに、素直に車出してんのよ…
そうは口にせず、黙ったあたし。ただその腹立たしさだけは抑えきれなかった。アンタは、誰の執事だったかも忘れたわけ?バックミラーに映る、百瀬の目許をきつく睨みつけた。
窓に肘をついて、外を眺めるユキノは、何が楽しいのか唇を弧の形にしている。
きっと百瀬が迎えに遅れた原因も……目の前の女にあるに違いないわ。
あの家の…、
格の違う生粋の中の生粋の血を継いだ娘なら、もっと礼儀ってもんを持って行動しなさいよ。
この女には、節度ってもんが欠如してんのよ。
街を抜け、住宅街を過ぎる。