エンビィ 【完】




「“モンナンジュ”」



店の名をポツリと呟いたあたしに、ユキノが視線を上げた。



「“モンナンジュ”って名前にしたのは伊織様?」



なんとなく…、なんとく、

そう感じた。



妹を溺愛してやまない、あの男。

妹にしか甘さを見せない、あの男。


きっとあの男の感情は、妹を中心に回っている。


ユキノは僅かに首を傾げながら、



「そうねえ……正確にいうのなら、伊織お兄さま一人ではなくってよ」



あたしの予想を、少しばかり裏切った。



誰も…複数いるなんて考えないじゃない…。伊織が“モンナンジュ”と名付けたのなら……それは絶対にユキノのこと。


そう断言してもいい。



“モンナンジュ”

“ 私の天使 ”



溺愛を象徴するような名だと思ったけど、複数ならただ単に、そのフランス語が気に入っただけのことかもしれない。



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