エンビィ 【完】
家に帰りつき、メイドに鞄を渡す。
今日は百瀬が父の仕事についていっているから、家にはまだ帰ってきてないようだった。
そのまま自分の部屋で着替えようと、階段を上ろうとして――。
「玲奈様」
「百瀬かえって―――」
「玲奈様」
"玲奈様"
幼い頃から何度も耳にしているあたしの名前。
百瀬から呼ばれる名前。
でもどうしてかしら――?
硬い表情で、二度呼ばれた名前は、本当に百瀬から発せられたあたしの名前なのだろうか――。
それを怪訝に感じたからか、手すりを握る力が強くなった気がした。
心なしか息が荒いように見える。
面持ちこそ躊躇いを含むってのに―――
それでも百瀬は、
あたしから視線を逸らさずに、決意したように告げた。