エンビィ 【完】
「いった…!」
「ぶつかったら謝るくらいしなさいよ!」
震えていた足が、ふらふらと勝手に歩む。
人にぶつことを厭わず、ただ確認したくて、ソレに近づく。
振り乱れるソレに、縋り付きたくて―――
なんだ、訃報なんて……
手違いだったんじゃない、そうよ、あんな気の強い女が簡単に死ぬわけない。
「聞いてねえんだよっ…!病気だあ?持病だあ?ふざけてんのか!?アイツはそんな兆候一切見せてねえぞ!?アイツなんで死んだんだよ?」
望んだのか、
縋ったのか、
そんな淡い期待は、無残にも散っていく。
黒いスーツの胸元を引っ張り、ドスのきいた声で、一言一言を喚き散らす男。その男が、大きく右手を振りかざそうとして、力尽きたように項垂れた。