エンビィ 【完】
「てめぇな!」
激昂してくる男に、足が震えた。
きっと、鼓膜が震えたせい…だから、怖いと感じただけ。
そう、相手がとても野蛮だから、怖いと感じただけ。
震えなんて、ほんの刹那的なもの。
「女だからって容赦しねえ」
こんな強引に、
それもあたしの嫌いな屈服するようなやり方で、あたしが「わかった」なんて頷くわけない。
「頷け」
男がどんなに凄んでこようが、やっぱりあたしは「わかった」と頑としても言わなかった。
そんなあたしと、男のやり取りを止めたのは、
「ケイ君……そんなことしなくていいです」
眉を寄せて、ユラユラと困惑した瞳をもつ女。ただそう告げた言葉は、ひどく冷めていた。
そのアンバランスな瞳と声が、不審を運び不穏。