エンビィ 【完】
「なら、目障りなユキノが消えて清々した」
―――ああ
あたしはもう死んでしまったユキノに、一生勝つことはできない。
追いつこうと、頑張ることすらできない。
報われないこの感情を、どこで消化していけばいいのか、皆目見当もつかない。
「オイ!いい加減に、」
またも伸びてくる男の手。
それに捕まる前に、あたしを捕らえたのは、鈴のような女の声。
「ユキノも最低ですけど、あなたも同じくらい最低です」
あたしの頭蓋を引き寄せて、右耳で囁く。
ひんやりとした空気を纏った女は、どことなくユキノを匂わせた。
そして、あたしの勘は良く当たる。
「それにこんなの―――ただのイタズラです」
決して男には聞こえない程度の小声で、神妙に言い放った唇は、あの、忌々しくよく動き、奇想天外な文字を紡ぐ、あの桜色の唇そっくりだ。