エンビィ 【完】
「俺、この日のために張り切っちゃたんだよ。一世一代のユキノの舞台だ。わかるかーイオリ?」
「全然分からない」
「だってな、ユキノに一番合う色は赤だ」
「黒だ」
ハルは己の感性を疑わず、自信満々に。イオリも口調は淡々としているが、間髪入れずに返した声は、ひどく真剣だ。
「赤だって」
「黒だ」
「赤だよー」
「黒」
「赤」
「黒」
「赤」
「しつこいぞハル」
「イオリもね相当しつこいよ」
「しつこいと嫌われるぞ?」
「ははっそっくりそのままお返しするよ?」
そこで2人は、沈黙を落した。ハルは唸りながら、顔を片手で覆った。イオリはそれを視界に入れてはいたが、頭は別件で占めている。