エンビィ 【完】
覚えがないはずがないのに、少女は首を傾げる。わざとらしいそれに、青年は、心の中で非難めいた視線を送った。そう、心の中でだけのはずだったが、
不思議と相手に気づかれてしまったようで――
「ふふ。最後くらいはな」
楽し気に、悪戯気に、目尻を歪ませる。
「本来“ユキノ”は、ハルのモノだからな」
ああ―――なるほど。
これが彼女が赤いドレスを着ていた理由か、と青年は苦笑を零した。
全く、変な人だ――。
夜風と言っていい時間帯かは分からないが、風に靡く長い髪が目につく。青年は、それを満足気に眺めていた。
「後悔してますか?」
「なにを?」
「約束のことです」
「いや」