エンビィ 【完】
肯定とも否定とも取れない声音ではあるが、少女の横顔は、そんなのはどちらでもいいと言いたげであった。
けれども、どことなく機嫌が悪そうな口許。
「でしたら、何が不満ですか?」
「……理解できない」
ポツリと零されたそれは、明け方の空に吸い取られそうだった。
「確かに私は、代償に、お前の望むことを一つ叶えると言った」
「はい。そうでしたね」
青年は瞑目しながら、数年前のことを思い出していた。
ひどく懐かしくあり、ひどく驚くべき思い出。
「それがどうしてまた“ユキノを殺して下さい”なのか、理解できない」
「……貴女が…理解できないはずはないです」
直後、頬杖をやめてこちらに身体をむけた少女は、肩を竦めて青年と対峙する。人外の美しさと表現しても過言ではない容姿が、一つため息を吐いた。