エンビィ 【完】
「顔、触らせてくれないか」
ここに可否はない。
あくまで突然にではなく、告げることによりワンクッション置くだけの言葉。
それは信号で例えるなら、青から赤に変わる手前の黄色のようなもの。
「ああ、確かめてくれ」
その証拠に訪問者も付属をつける。
二人は見つめ合うようにして向かい合った。
男は普段他人と目が合うことに苦痛を感じない。
しかしこの訪問者は別物のようで―――、
数秒かち合えば、
ざわざわと視線を逸らしたい気分になった。
だが自分が逸らすわけにはいかない。
「まぶた、閉じてほしい」
抵抗することなくすんなり瞼に消えていった黒真珠のような瞳に、安堵する。
男は距離をつめて、頬に手を伸ばす。
その指は、顔の輪郭を辿る。
雪のように……白い肌だと思う。
まつ毛は蝶のようにフサフサとはいかないが、
一本一本が繊細で長い。