エンビィ 【完】
蝶のようにフサフサとしたまつ毛をもつ“彼女”は、目を覚まさない。
二度とそのまつ毛が蝶にように羽ばたくこともない。
「手放すことはない、と思っていたのだがな」
訪問者は、感情の読めない声音でそう呟くと、
前髪がかかった額にキスをする。
赤いドレスを身にまとった“彼女”と、黒いコートを身につけた訪問者。
横たわっている“彼女”に覆いかぶさっている訪問者は、
「非常に我儘なあいつの望み」
この神聖な空間には相応しくない、死神のように見えるのに。
全然禍々しさは感じず――、
むしろ“彼女”に生気を分け与えているようだった。
「約束した以上叶えないわけにもいかない」
だからと続け――――。