エンビィ 【完】
あたしはそびえたつ、老舗ホテルの外観を眺めた。
普通なら怪しくて無視だけど“ロビー55”は気になる。
この老舗のホテルは、
50階から最上階である55階までは、一フロアを貸し切り営業している。それをするのは、うちの父だって楽じゃない。ひどく金がかかる、と言っていたのを覚えている。
その最上階を貸し切る力があるのなんて……一握り。
「…………」
エレベーターに乗り込んで、55階を目指す。
足を踏み入れたことのない領域に、緊張で喉がカラカラになってきた。
ベルの音とともに、ドアが開いていく。
開けた視界に広がるのは、55階からの絶景。
最上階だからか、天井が広い。
けれどあたしには、この55階をのんきに眺めている余裕はなかった。ロビーには、たくさんの椅子とテーブルが、オシャレに並べられている。
そのなかの一つに、あたしを呼びつけた本人が座っていた。