エンビィ 【完】
「……伊織様?」
こちらに背をむけて、
パソコンとタブレットの2つを操作しているのは、恐らく伊織。
背後から声をかけたあたしに対して、
「座ってくれるか」
こっちも見もせずに、仕事をしたまま告げた。
それは…人を呼びつけた本人の態度じゃない。
けど、相手は伊織。
妹以外を瞳に映さない、伊織。
だから、口にはださず、態度に出した。
正面のソファーに音をたてて座る。
そうすれば、意外にも伊織は視線をあげた。
目があって、ドキリとする。
切れ長の双眼が、あたしを映している。
その黒真珠の艶やかさは、ユキノと瓜二つだと気づいた。
「単刀直入に用件を言おう」
伊織は表情を作らずに、淡々と火口をきる。