エンビィ 【完】
伊織の家柄に継ぐほど、有名な家だけど、領能寺のほうが歴史があると聞く。
あたしは経営のことはさっぱりだけど、
伊織と親しいところを見ると、父はかなり実力のある実業家らしい。
「今日は、伊織くんに誘われたんだよ」
なんと父は、
その伊織に誘われたと自慢げに言う。
「領能寺と伊織くんは、深い親交があるらしくてな」
「………しらなかったわ」
「それで、海外で活躍しているピアニストがくるからと招かれたのさ」
………でもそれって…、
「………お父様だけでなく…あたしも招いて下さったの?」
「ああ。ぜひにとな」
…………伊織様…どういう風の吹き回しなの。
この間はあたしに言い過ぎたと、
罪悪感を感じたのか―――。
でも百瀬の“伊織様を甘くみないで下さい”という忠告が、警報を鳴らす。