もう一度その名を呼んで
◇もう一度その名を呼んで◇
一.叶わぬ想い
「月を見ているのですか?」
叔父上の部下であり、幼馴染でもある≪ハ・ソウン≫に声を掛けられた。
ソウンは十七歳という若さで科挙の武科(武官を採用する試験)に合格し、異例の出世で兼司僕(キョムサボク:王の親衛隊の一つ)の従事官(チョンサグァン:従六品の官職)に就いている。
兄弟姉妹がいない私にとっては弟みたいな存在で、ソウンも私を“姉様”と呼んでくれる。
「今日は特に月が綺麗ですからね。」
『本当に・・・。だからこそ昔の人は、月を題材にした詩を残しているのかもね。』
張九齢の“望月懐遠”や、李白の“月下獨酌”等多数。
どれも私の好きな詩だ。
ソウンは武芸だけではなく文官にも引けを取らない程の知識を持ち合わせているから、私よりも多くの詩を知っている。