悪い男と共犯者
共犯者
無駄に色気のある男は俺の相方だ。
俺達2人は芸人としてコンビを組んでいる。
相方は、楽屋で気だるそうに新聞を広げながら緑茶をすすっている。
やっていることはただのオッサンなのに、何故かこの男がやると様になるのが憎たらしい。
色気の大量生産放出を惜しまないこの相方は何故か恋人と結婚する気配が全くない。
最初は芸人として成功して遊びたくなったのだろうぐらいにしか思ってなかったがどうやら違うらしい。
まぁ、この男が女遊びをするような奴じゃないことは相方の俺が十分に知っているのだが。
じゃあ、何故こいつは結婚しないんだ?
謎だ。
永遠の謎。
この楽屋の色気濃度から推測するに、昨夜は愛しの恋人とかなーり濃密な時間を過ごしたのだろう。
男の俺でもこいつの色気に当てられそうだ。
そう、この男は傍からみても恋人を溺愛してることが手に取るように分かるような分っかりやすーい性格だ。
俺とこいつの付き合いだから分かるのもあるだろうが、この男の恋人への執着心は異常なほどだ。
こいつの色気は恋人に左右されまくる。
それを知らない女達は花に誘われる蝶のようにこの男に惹きつけられていくのだ。
収録が終わる度に明らかに好意を寄せた視線で話かけてくる女をこいつの恋人が見たらどう思うのだろう。
早く結婚すればいいものを。
恋人が気の毒だ。
まだ俺達がコンビとしてまだまだひよっこだった時に生活するためにバイトしていた。
彼女とは、そこのバイト先で知り合ったらしい。
その辺から、元々人よりもあったこいつの色気がジワジワ上昇してきたのだが。
幸せボケにも程がある。
度が過ぎると芸人の俺でも本気で扱いに困るから色気を振りまくのはやめてくれと言いたい。
マジで本気で言ってもいいですかね。
「お前芸人だよな。」
「は?何言ってんだよ。頭おかしくなったか。」
相方は怪訝そうに新聞から顔を覗かせる。
「いや、芸人としての自覚があるならいいんだ。うん。俳優としての転職希望は無しだからな!!」
「んなことあるわけないだろ。ほんと、お前はボケ担当の申し子だな。」
「それを聞いて俺は安心した。良かった良かった。」
「ったく、くだらねーこと言ってんじゃねーよ。」
くだらねーとはなんだ!
こっちは真剣だっつーの!
「そーいえば、カオリちゃんは元気?」
「カオリ?元気だよ。今日の朝もヨダレ垂らして寝てた。」
くくっと喉で笑いながら幸せそうに笑う相方に人知れず冷たい視線を向ける。
「ふーん。」
きっと、そのヨダレを垂らしていた恋人の肩は、素肌だったに違いないと確信した俺だった。