【短編】さよなら、愛しいひと
さよなら、愛しいひと
黒い二人掛けのソファに透明なガラステーブル。
その向こうにはモノトーンのキャビネットがあって、その中心にテレビが置かれている。
白と黒を基調としたシンプルなこの部屋は何度も訪れたことのある場所。
それもそのはず、此処は彼氏の部屋。
恋人の家であるはずなのに、この場所に流れる空気は重たい。
彼の唇が言葉を紡ごうと小さく動く。
ただし、それは言葉にならぬまま、ただただ息を吐き出すばかり。
それを横目に見て、面白くもないバラエティ番組に視線を戻す。
二人組の漫才芸人がなにかしているようだが、内容が入ってこない。
確かに目に映しているはずなのに、耳に届いているはずなのに、ガラス一枚隔てた場所にいるような気分だった。
それは今日終わることを理解していたからだった。
一つの恋が、今日終わる――。
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