【短編】さよなら、愛しいひと
永遠がないとしても、永遠を願わずにいられなかったあの頃の私達は遠い。
今もあの頃と同じ気持ちでいられたのなら、どれだけ幸せだったか。
そんな虚空な妄想を描いては消し、消しては描いて涙した。
それでも自ら終わりを告げられなかった。
気持ちが向いてなくてもいいから、心から愛されなくてもいいから。
形だけでも保とうとした私は酷く滑稽であっただろう。
理解していても弱い私は壊れた恋に縋り続け、長い間彼を縛ってきた。
今日もこうして彼が終わりを告げるのを待っているのだから狡い。
だから、彼から終わりの言葉を告げられた時、その時は笑顔でこの関係を終わりにしようと決めていた。
この部屋に入った時から彼から感じていた決意が痛い。
迷いながらもちゃんとけじめをつけようとしてくれる彼の想いが痛い。
私もそれに応えなければ。
そう思うのに、今も確かに恋焦がれる彼の前ではその決心が今にも揺らぎそうだ。
目頭から熱く零れそうな雫を耐えるように床についた手に力を込める。