【短編】さよなら、愛しいひと


「大事な話がある」


嗚呼、とうとう告げられるのだと思った。

冷たく、重く、悲しい言葉。


「大事な話?」


首をかしげて見せると、彼は少しの緊張を混ぜた真剣な顔つきで告げた。


「別れよう」


覚悟していたはずだった。

だが、その覚悟は些かならず足りないものだったらしい。

心臓をぎゅっと握りしめられるような感覚に息が詰まる。

こみ上げてくるいろんな思いを必死に抑えるように俯き唇を噛む。

泣かないように精いっぱいの笑みを浮かべて、顔を上げた。


「うん、別れようか」


目の前の彼は苦しそうな顔をしていて、思わずその頬に手を触れてしまう。

肌触りのいい彼の頬はとても綺麗で、もうこれから触れることもないのだと思うと苦しかった。

驚いたように目を見開く彼に、なんでもないことのように笑う。


「なんて顔してるの? 一生の終わりみたいな顔しちゃって」


くすくすと笑うと、彼は一層苦しそうに顔を歪めた。



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