【短編】さよなら、愛しいひと
「そんなに顔歪めて、カッコいい顔が台無しなんだけど」
口悪く言っても彼はたただた苦しそうに顔を歪めるだけでなにも言わない。
「あーもう、いつものように軽口くらい言えないのー?」
それでも口をついて出る言葉は悲しいくらいに嫌味な言葉ばかりで、自分が嫌になる。
「おーい、生きてますかー?」
顔の前でぶんぶんと手を振るとパシッと手を取られた。
「きゃっ?」
そのまま手を引っ張られたかと思うとパチンっと額に小さな衝撃が走る。
「......ったー。地味に痛いんだけど」
「お前がふざけるから悪いんだろ」
不敵に笑う彼はどこか寂しそうで、心の中でごめんと謝らずにはいられなかった。