【短編】さよなら、愛しいひと
「俺、本当にお前のこと好きだった。今だって大事な奴には変わりなくて.......」
大事な奴、だなんて普段絶対に照れて言わないのに、貴方は残酷なほど優しいね。
「ずっと好きでいられなくてごめん」
告げられた言葉は心臓に深く突き刺さっていく。
痛い、痛いよ。
そう声をあげて泣きたいのに私のちっぽけなプライドが許してくれるわけないんだ。
「ははっ、直人は狡いね。こんな時に素直なんて、引き止めてるようなものだよ」
「それは......」
言葉を返そうとする彼を遮って、今度は私が手を引っ張った。
条件反射で此方に前屈みになった彼の唇に私のそれを押しつける。
「これでちゃらにしてあげる」
時が止まったように固まる彼を見て私は不敵に笑う。
「ばいばい」
それだけ告げて立ち上がり、彼の部屋を出た。