あじさい~揺れる想い~
「手塚さん、浴衣着るんや〜。見たいなぁ」
どっからともなく入って来た渡辺くんの言葉に、私は固まってしまい何も言えずにいると、理香が助け舟を出してくれた。
「残念でした〜。ゆかりは彼氏と行くからあかんで」
理香は嬉しそうに言うと「ね?」と私の顔を覗き込み聞いた。
そして、彼の方は見ずにゆっくりと頷いた。
なんでいきなりそんなことを言い出すんよ・・・。
私には彼の意図が全くわからず、動揺するばかりだったが、次の彼の一言でさらに私は動揺することになる。
「じゃあ、彼氏も一緒に行こうよ。俺らも行こうって言ってたからさ。まぁ、彼氏がいいと言ってくれたらでいいけどね」
私は思わず彼の顔を見ると、話している口調とは裏腹に、鋭い視線を送られていて、胸が痛くなった。
「じゃあ、聞いてみるね」
頭の中では断ろうとしていたのに、なぜか言葉が出てこなかった。
理香は、渡辺くんに対し、
「花火デートの邪魔をするなんて、渡辺くんデリカシーないわ~」
と面と向かって非難していたが、渡辺くんは気に留める様子もなかった。
「じゃあ、俺のメアド教えるから、決まったら連絡ちょうだい」
そう言いながら、半ば強制的にメアドと携帯の番号を交換させられた。
まぁ・・・掛けることないからいいか・・・。
そう自分に言い聞かせるように、携帯に『渡辺』と入れた時に手が止まった。
渡辺くんの下の名前なんだろう・・・。
そう思った瞬間、彼から話し掛けられて、身を強張らせてしまった。