あじさい~揺れる想い~
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「あ、そうなんや・・・ううん、仕方ないよ。頑張ってね」
周りは人で溢れかえる中、私は浩平からの電話を受けていた。
『急に塾に行かないと行けなくなって・・・ごめん』
数分前に浩平に言われた台詞によって、私の力は抜けてしまった。
せっかく浴衣まで着て来たのに・・・。
浩平が喜んでくれるって思ったのに・・・。
でも、仕方ないよね・・・受験生やからね・・・。
私はしばらく浩平との待ち合わせ場所に立ち尽くしていたが、渡辺くん達を待たせているのではないかと気づいき携帯を取り出した。
「もしもし、渡辺くん?」
『手塚さん?どうした?」
電話越しの渡辺くんの声が優しくて、不覚にも涙が出そうになってしまった。
「あの、彼が来れなくなったから、私このまま帰るね」
そう、他の人はいたとしても、私一人で渡辺くんと過ごすのは避けたかった。
それに、この浴衣は浩平に見てもらいたくてきたんだから。
『えっ、ちょっと待って。手塚さん、今どこ?』
私が帰ると言ったからか、渡辺くんの声が焦っていた。
「えっ・・・東公園の入口だけど」
『公園の入口やね!わかった!今すぐ行くから、そこを動いたらあかんで!」
「いや、ちょっと・・・私・・・」
私の言葉も聞くこともなく、渡辺くんは電話を切った。
私は、渡辺くんの言葉を無視して帰ろうかとも思ったけど、心配を掛けても悪いので待つことにした。
公園の入口で待っていると、何組ものカップルが私の前を通り過ぎた。
その姿を見るたび、私は溜息をついた。
こんな場所で一人で待つのは辛い。
心底そう思った。
私は目を閉じて、唇を噛み締めて零れてきそうなものを堪えていると後ろから、いつもの明るい声が聞こえた。
「手塚さ〜ん!」
振り返ると、大きく手を振っている渡辺くんが笑顔で近づいて来ていた。
着崩した制服姿しか見たことがなかったが、私服も彼らくしラフな感じだった。
「彼氏、来れなくなったんやって?」
真剣な顔で聞く渡辺くんに私はゆっくりと口を開いた。
「・・・受験生だから、仕方ないよ」
俯いて話す私に彼は容赦ない言葉を浴びせた。
「いくら、受験生でもさ・・・・・・どうなってるん?手塚さんの彼氏」
落ち込んでいる私に、彼の言葉は胸に突き刺さったが、何も言うことができなかった。
そこまで言うことないし・・・言われる筋合いもない・・・。
黙り込んでしまった私を見下ろして、彼はぽつりと口を開いた。
「こんなかわいい彼女を放っておいて心配じゃないんかよ・・・あの男」
彼の言葉に驚いた私は、顔を上げて、目の前の顔を見つめた。
「浴衣、めっちゃ似合ってる」
浩平に言われたかった言葉を彼氏でもない渡辺くんに言われているのに、胸の鼓動が速くなっているた。
この現実に、私は自分を許すことが出来なかった。