あじさい~揺れる想い~
そして校舎内に入ると、
「じゃあ、また明日ね」
と、それぞれの教室に向かって歩き出す。
2年生と3年生の教室は逆の方向なので、学校にいる間は、ほとんど顔を合わせることはない。
帰りも浩平は、塾へ行くまでの間、図書室で勉強するから一緒に帰ることはできない。
私は、高校に入ってから地元の駅前のパン屋さんでバイトをしているので図書室でいることともできない。
平日は、朝しか会えないけど、休日には出掛けたり出来るから、私はあまり気にはしていない。
「ゆかり〜!おはよっ!」
いつもの元気な声に呼び止められて振り返ると、満面の笑み――いや何かを企んでいるような笑み――で、手越理香(テゴシ リカ)が立っていた。
理香とは、2年になってから出会った友達で、席が前後なので仲良くなった。
彼女は美人で何でもできるのに、鼻にかけたりせずに、とても気さくな子で、一緒に居てとても楽なんだ・・・あることを除いては・・・。
「おはよう」
私は怪しげな笑顔を零している理香をかわすように、挨拶をして教室の前のドアから入った。
私たちが入って来たのに気付いたクラスメートが声を掛けてくれる。
そして・・・まただ・・・。
窓側の1番後ろの自分の机に座り友達と話している彼――渡辺くん――と目が合った。
いつもこうだ。
あの真っすぐな目で見られると、体中に力が入り、知らないうちに唇を噛み締めている。
なんで見てるの?
なんで目が合うの?
私の後ろにいた理香に、「ゆかり、どーしたの?」と声を掛けられて、我に返り自分の席に向かう。
まだ席替えがされていない私たちのクラスは、始業式の日に出席番号順に並んだままであり、私と理香は前後の席。
20番 手越 理香
21番 手塚 紫
私の名前は『紫』と書いて『ゆかり』と読む。