あじさい~揺れる想い~
「ゆかり・・・話してくれる?」
私の頭の上から聞こえる浩平の声は苦しそうで、私の胸を締め付けられるようだった。
話すって・・・何を?
「好きな人ができたんやろ?」
浩平の口から出て来た予想もできなかった言葉に私の心臓は止まるかと思うくらい驚き、彼の顔を見上げた。
なんで・・・笑ってるんよ・・・。
見上げた浩平は、「遠慮しないで、話して」と優しい笑顔で見つめられながら言われたことで、私はこれまでの私の考えなんて、全て彼にお見通しだったことに気付いた。
遠慮しないで・・・か。
「私、好きな人ができたの・・・・・・」
俯き話す私の頭を撫でる彼の手が優し過ぎて、涙が止まらなかった。
「あいつだろ・・・・・・ゆかりの教室に迎えに行った時に、ゆかりのことを呼んだ奴・・・・・・」
その声が聞いたことのないような低いものだったので、私は思わず浩平の顔を見上げると、彼は下唇を噛み、目を閉じて眉間にシワを寄せ、険しい顔をしていた。
なんで知ってるの・・・?
まさか、全部知ってる?
「・・・・・・あいつさ、僕の顔を見る度に睨んで来るんよな・・・・・・
あれだけ睨まれたら、気付くっていうか・・・
でも僕も、ゆかりを離すつもりなんてなかったから、思い切り睨み付けたんやけどな」
浩平が・・・?
睨むなんて・・・考えられない・・・。
「ゆかり、今信じられへんって顔してる・・・・・・」
険しかった顔が少し緩み、さらに言葉を続ける浩平をじっと見つめた。
「でも本当やからね・・・僕はずっと、ゆかりの側にいたいと思っているからね・・・」
お願い・・・そんな真っすぐな目で見ないで・・・私は・・・・・・こんなに想われているのに・・・裏切ったんやから・・・。
私は俯いて歯を食いしばり、これ以上涙が出ないようにしていたが、自分の意思とは逆に、涙はどんどん零れていった。