あじさい~揺れる想い~


「何、泣きながら歩いてるの!」


俯いて歩いていた私に声を掛けて来たのは、渡辺くんだった。



なんでここにいるの・・・・・・?



「昨日・・・・・・泣いてたから、気になって・・・・・・

バイト先に行ったら少し前に帰ったって言われたから、追い掛けたんやけどいなくて・・・・・・」



目を泳がせながら、話す様子がおもしろくて、さっきまで泣いていたのを忘れるくらいだった。



「ストーカー?」

そう、渡辺くんにならこんな失礼なことも冗談っぽく言えるんだ。



そして・・・・・・。



「ストーカーはひどいなぁ。

せっかく心配してやったのに!ってのは嘘で、この髪飾り昨日落としてたから・・・・・・渡したかっただけ」



そう言って、渡辺くんは私に髪飾りを渡してくれると、ニッコリと笑ってくれたが、どこか悲しげな笑顔であることに気付いた。



「ごめんな・・・・・・せっかく彼氏の為に浴衣着たのに・・・・・・見せられなくて・・・・・・」



そう言うと、渡辺くんは私とすれ違おうと歩き始めた。



彼が私とすれ違った瞬間、彼を呼び止めようとしたが、言葉が出てこなかった。




「・・・・・・れたよ」



私が何かを言おうとしているのがわかったのか、渡辺くんは「えっ?」と言い、振り返って聞き返してくれた。




「・・・・・・別れたよ」



私は精一杯の勇気を振り絞って、彼の目を見つめながら言うと、彼は目を真ん丸に開いて、驚いているようで、しばらくは何も発しなかった。





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