ガラスの靴じゃないけれど
まるで鬼退治に成功した桃太郎のような気分になった私は、我が物顔で商店街の通りを歩き出した。
八百屋さんに、肉屋さん。本屋さんにおもちゃ屋さん。
まだ商店名が微かに読み取ることのできる古びた看板を見つめながら商店街を歩き続けていると、数メートル前方にほんのりと明かりを灯す店舗を発見した。
この状況の中、まだ営業を続けている店があったなんて......。
驚きながら、ゆっくりとその店舗に近づいてみると、そこはまるで昭和の時代にタイムトリップしたような気分になる店だった。
とは言っても、平成生まれの私にとって、昭和は映画やテレビでしか知らない世界。
店の入り口に刻まれているのは、山本時計店の文字。
ガラスがひび割れたままのショーケースに並ぶのは、埃の被っているペアウオッチと懐中時計。
褒め言葉を使用してこの店を表現するとしたら、レトロな時計屋さんといった具合?
でも今どき、こんなお店に時計を買いに来るお客さんがいるのかしら?